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アメリカン・ビジネス
(連載エッセイ)
1.
はじめに
2.
工場用地選定調査 - 1
3.
工場用地選定調査 - 2
4.
工場用地選定調査 - 3
5.
米巨大資本とのJV - 1
6.
米巨大資本とのJV - 2
7.
米国での工場建設 - 1
8.
米国での工場建設 - 2
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米国での工場建設 - 3
10. 米国での工場建設 - 4
     
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アメリカン・ビジネス: 工場建設の話など、貴重な経験を紹介中。
 
9. 米国での工場建設 (ターンキー・プロジェクト) 第3話

地鎮祭 (Ground Breaking Ceremony) の日は、あいにく、雨になりました。オーナーの希望で、神主さんを呼び日本式 (正確には、和洋折衷) のセレモニーを行いました。式には、州政府の代表や市長など、VIP のほか、多くの人が訪れましたが、一時は雷雨が大変激しくなり、この工事の先行きに良くないことが起きるのではないかという思いが、私の脳裏をふと過ぎりました。案の定、この工事の指揮を執るために派遣されてきた現場所長の N氏が体調を崩し、この後、日本に急遽帰ることになってしまいました。そして、何日もしない内に、N氏はお亡くなりになるという予期せぬ不幸の連絡を受けました。アメリカに来て1ヶ月ほどで体調を崩され、帰国、そして帰らぬ人となった N氏の冥福を祈るばかりでした。

現場所長には、新しく H氏が着任しました。そして、このプロジェクトのもう一人のキーマンであり、プラント工事のベテランで技術面でのブレーンでもあった U氏が、日本でのオーナーとのやり取りに一段落をつけて、アメリカに乗り込んできました。さて、そうした中、採用したローカル設計事務所の G社へは日本で完成した図面がどんどん送られ、日本から派遣されたエンジニアが数名、その事務所に張り付いて、必要なレビューや変更をローカルの CE の人達と一緒にする作業が開始されました。そうなると、日本での設計作業は、一方向でなく、双方向の連絡業務が必要になり、作業が増大します。結果、日本での設計業務の進行状況には遅れが少しずつ出始めてきました。日本の仕事に遅れがでると、もちろん、そのしわ寄せはアメリカサイドに来ます。原料の調整などを行うビルディングを建てる、鉄骨の加工に必要になる Shop Drawing という図面が出来るのを待って、鉄骨屋に届けるなんていう仕事が、クリティカル・パス (Critical Path) アイテムになってしまいました。

クリティカル・パスとは、その仕事が遅れるとプロジェクト全体にその分遅れを出してしまう工程のことです。例えば、おにぎりを作る作業がプロジェクトだとすると、最初に、どんなおにぎりにするかを決め、材料をそろえますね。 食べる人の意見を聴くことが条件だとすると、どんなおにぎりを作るのかということを決める工程が、通常、最初のクリティカル・パス・アイテムになります。しかし、食べる人の意見を聴く必要がなければ、そんなことは買い物に行きながら決めればよいことですので、買い物に行くことが最初のクリティカル・パスになります。 一方、おにぎりを作るような材料がそろっている人にとっては、買い物に行かなくとも作業が開始できますから、お米を炊くことが、クリティカル・パスになる訳です。ご飯が既に炊けてある場合は、海苔と中に入れる具があればおにぎりを握ることが出来ます。そして、2-3個のおにぎりを作るだけであれば、5分もあれば出来てしまうでしょう。従って、やるべきタスク (task) が同じでも、条件や準備の程度によって、それをやり遂げるのに必要な時間は大きく違ってくるのです。

建設プロジェクトにおいては、まさに "時は金なり" という状況です。プロジェクトの先を見越して、無駄のないように、このクリティカル・パスを少なくし、全体の工事がスムースに行くように段取りをして行きます。おにぎりが、すぐに握れるような状況を、プロジェクト中は整えておくわけです。正直なところ、Shop Drawing を作成する作業が、クリティカル・パス・アイテムというのは、極めて、段取りの悪い状況です。直前になって、おにぎりの具を買いに行ったようなものです。さて、前にも、仕事を細かく分けて発注するか、大きな単位で発注するかという話をしましたが、素人目には細かく発注をして行ってもさほど問題が内容にも見えますが、実はそうではありません。おにぎりの具を買いに行くような状況がすぐに発生してしまいます。つまり、業者は材料の手配をしたり、人の手配をするわけですが、そうしたことが大変効率の悪い作業になりがちです。細かいところまで、プランや設計が出来ていないと思わぬことで効率が悪くなります。何万、何十万点もの細かな仕事から成り立っている大きなプロジェクトですから、効率の悪い状況を想像をしてみて下さい。

さて、工事は第一段階の整地とパイリング (鉄杭を打つこと) の作業から開始されます。その仕事を発注するに当たっては、近隣の土木業者にビッド (入札) をしますが、このコストは、何本のパイル (鉄杭) をどの深さまで打つかで決まります。かなりの重量の機械をきちっと据え付けるためには、手抜きの出来ない大切な作業です。一方、そうした作業を進めている間に、残りの設計作業が進みますが、設計の仕事がすべて完成していない状況では、設計の完成度の高い部分の仕事の発注しかできないわけです。こうして、プロジェクト初期の仕事は、細かな単位で発注するような状況が続きました。それでも、タスクが比較的単純な作業でしたから、さほど大きな問題ではありませんでした。> 続きは、こちら