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アメリカン・ビジネス
(連載エッセイ) |
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アメリカン・ビジネス: 工場建設の話など、貴重な経験を紹介中。 |
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3. 工場用地選定調査 第2話
A の工場用地選定調査の仕事は、プロジェクトの話がすぐに実行されなかったこと、また、別の事業部の工場を建設する話が出てきたことなどもあって、5年くらいの間、話が出たり消えたりしながら続いた。一度、調査ををしても、条件は刻々と変化した。
例えば、税率、失業率、電力コスト、組合活動など、2-3年も経つと状況は変わった。また、候補の空き地や工場団地のロットがなくなってしまうことも当然起きた。それでも、一度調べた土地のデータをアップツーデイトなものにするのは、一から調べ直すのとは大きな差だし、また、再調査、そして、交渉すべきポイントも絞れたから、最初の調査が無駄になることはなかった。
ところで、現地調査とは、一体どんなものなのかについて少しお話しておこう。通常、経済開発局などの担当者に前もって連絡をし、見て回る場所やインタビューなどをアレンジしておいてもらうのだが、そうした人達にもしがらみがあるようで、あそこを見て欲しいとか、こんな人に会って欲しいとかいうことが必ず出てきた。そして、そうしたリクエストにある程度応えることが必要だったが、時には、州知事に会って欲しいというようなこともあった。また、こちらのスケジュール内に多くの候補地を見て欲しいということでヘリコプターが用意されることが何度もあった。
ある時、A がインディアナ州北部の地域を調査した時、シカゴからニューヨーク行きの帰りの便を予約していたのだが、ヘリコプターでシカゴまで送るのでぎりぎりまで候補地を見て欲しいということになった。そうして工場用地を見て回った後、最後の訪問地からシカゴのオヘア国際空港まで、ゲイリーという町の上を通って、シカゴ南の製鉄工場群のある所を抜け、ダウンタウンの高層ビルを
(下ではなく) 右手に見ながら空港へと向かった。小さなヘリコプターは、飛ぶ高度も小型飛行機より低く、ミシガン湖の上を飛ぶこともできないということで、そんな航路でオヘア国際空港に入って行った。A はパイロットの横に座りヘッドフォーンをつけていたので、管制塔からの指示が良く聞けたが、実に小さなヘリコプターでジャンボ機や大きな旅客機の合間をぬって空港に入って行くのは圧巻だった。アメリカで仕事をすると、小さな飛行機には何度も乗ることになるが、小さなヘリコプターでこうした大きな空港に入っていくのは、一種独特な雰囲気があるものだ。
そんなことだったから、帳面消し的に人に会ったことも、もちろん、沢山あったが、彼らの顔を立ててあげることが、後に、自分の顔を立ててもらうことになるのは 日本もアメリカも変わらない。従って、行った先々の町でのスケジュールは、すべての時間が A の思うように使える訳ではなかった。
また、現地の工場を見学させてもらい、色々な事情を聞いて回ると、良い話ばかり聞かされる結果になりがちだ。A がお話を聞いた人達は、担当者が売り込みを行う上で都合の良い人達がほとんどだから、そんなことを考えながら、質問をしたり、その答えから実態を見極めるというプロセスが必要だったのは言うまでもなかった。
アメリカの税制では、企業や個人の支払う固定資産税が、学校、警察、消防署などを運営していくための財源になっている。この税率とシステムは、州によって異なるので、州の違ういくつかの候補地の税負担額を比較するのは、困難なことだ。基本的には、そのコミュニティーでかかる費用は、そのコミュニティーの人が支払うという考え方だから、どこへ行ってもそう大差はないと考えるのが普通だろうが、案外そうではないのだ。州の財政が悪いところは、今は良くても将来税金が高くなるし、税率の低いコミュニティーでも人口が増えて、学校を大きくする必要が出れば、その費用を捻出するために増税が必要になる。電力コストなども一緒だ。原子力発電に依存する電力会社は、コストが高いし、石炭抱きの火力の発電会社でも公害対策の遅れているところは、将来、コスト高になる危険が高いわけだ。当然、そんなことも、調査の対象になる。また、輸送費などでは、州の規制が原因で、州内への輸送費が、州外への輸送費より高くなるなどといったおかしな現象が見られることもあるのだ。
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