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アメリカン・ビジネス
(連載エッセイ) |
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アメリカン・ビジネス: 工場建設の話など、貴重な経験を紹介中。 |
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4. 工場用地選定調査 第3話
さて、色々な調査項目の中で厄介なのは、組合
(Union) 活動の項目だ。アメリカの組合制度の弊害は、北米に進出する日本企業にとって脅威だった。高賃金の上に融通の利かない制度では、日本的な経営が出来ないというのが日本企業の経営者に共通した考え方で、組合化しにくい場所を選べというのが、トッププライオリティーの一つだった。特に、組合は、従業員
200人以上の規模の工場をターゲットにするとも言われていたが、町によっては小さな町工場のようなところも含め
50% 以上が組合化している町がある一方で、組合の会社が1社もない町もある、というような現状も見られた。もちろん、ほとんどの日本企業は組合化率の高い町は避けていったが、ある意味では、組合のない町では、町ぐるみで組合反対のようなムードが感じられたものだ。要するに、組合化すれば、企業の競争力がなくなり、結局、レイオフが出たり、廃業したりする企業が増えて仕事がなくなってしまう、というのが組合反対のコミュニティーや人達に一致した見解だった。企業を誘致する側の論理は、組合なしでも比較的賃金の高い仕事を提供できる競争力のある企業を誘致できることが一番望ましいのだが、アメリカの大手メーカーは、ほとんど組合化していたので、当時の日本企業は最も誘致したいタイプの雇用者ということだったようだ。
Department of Labor の統計資料によれば、2004年のアメリカ労働者の 12.5%
が組合員 (union workers) だそうだ。ユニオンワーカーの比率は、年々減少して来たが、この比率は、業種と地域によって大きく異なる。一番ユニオン・ワーカーの比率の高いのは、公務員
(先生や警察官、消防士といった職業) の人達で、その比率は、36.4% と年々減少してきたものの、今でも高い数字になっている。
一方、民間企業のユニオン・ワーカーの比率は、2004年に 7.9% と遂に 8% を切った。約
20年前には、この 2倍以上がユニオン・ワーカーであったことを考えると、随分と変わったものだ。
民間で、今でも、ユニオン比率の高い産業は、運輸、通信(電話会社)、ユーティリティー(電力・ガス会社)、建設、自動車、製鉄などといった業種。また、地域別に見れば、アメリカでユニオン・ワーカーの割合の高い州は、高い州から順に、ニューヨーク、ハワイ、ミシガン、アラスカの順で、人口で見るとカリフォルニア、ニューヨーク、ミシガン、イリノイ、ペンシルバニア、オハイオの順になる。別の見方をすると南部の州では、ユニオン結成率が低いと言えるのだ。A が調査をして回った州では、ケンタッキー、テネシーなどは比較的低く、イリノイ、ウィスコンシン、インディアナ、オハイオは高いという状況だった。
ところで、アメリカの南北の境は、中西部で見るとオハイオ川ということが言える。この川をを境に、南へ行くと南部なまりの英語になるのが良く分かる。シンシナチとかルイビルといった都市は、メトロポリタン・エリアがその南北にまたがっており、両方の文化が共存する街だが、どちらかといえば、シンシナチは川の北側にあり、ルイビルは川の南にある町だ。当時は、日産がテネシー州の
Smyrna というナッシュビルの南にある町に進出していて、そこが自動車労働組合 (UAW) のターゲットになっており、組合が南下してくるという危惧もあった。それでも、南に行けば、組合の心配は減るのだが、必要な機械加工のできる下請けが周りに居ないとか、必要な技能職の人が集め難いなどの問題も当時はあった。
当時組合に疑問を感じるアメリカ人の割合が増えつつあったにしても、ユニオン化する企業は、テネシーであろうがケンタッキーであろうがあった。工場がユニオン化する一番の理由は劣悪な待遇だが、賃金が低く、労働環境が悪い企業はユニオン化する可能性が高いというのが定説だった。従って、進出しようとする町の企業にそうした企業がないか、などということまで調べたわけだ。そうした調査結果は、事細かにすべて報告するわけではなく、調査結果で疑問の生じたところは、単に候補地から外されていった。良いところを探すのが目的で、すべてのコミュニティーに得点を付けたりするのが目的ではなかったからだ。いずれにしても、時間のかかる作業であった。
さて、こうして、アメリカ中西部を中心に、ざっと、100のコミュニティーと 300箇所くらいの候補地を見て回ることになっただろうか。調査が一通り済むと候補地は 3-4箇所に絞られた。そして、さらに調査をしながらコミュニティーや電力会社などとの交渉を進め、条件を確認したり改善したりする作業があった。道路など周辺インフラの整備やタックス・インセンティブ、電力レートの交渉などは、場所を決めてからでは有利に進めることができない。そうした作業が、工場用地選定作業の最終ラウンドになるわけだ。そうした結果、なんとか、インディアナに
1つとケンタッキーに 1つ、合計2つの工場が建設されることになった。 > 続きは、こちら |
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