ツアープロゴルファーの飛距離
しかし、そうした中、クラブにも ボールにも 飛距離が伸び過ぎないような規制が加わり 2003年頃からは 記録の伸びが止まり その数値が 320ヤードを超えることは 極めて稀で 暫く停滞していた観がある。一方、それがここに来て 2020年の全米オープンに優勝した ブライソン・デシャンボーのように肉体改造をして飛距離を伸ばす選手が出てきたし、PGA のシード権を新たに獲得して参戦してくる若手選手に飛ばし屋が多いこともあって 再び その飛距離が伸びてきたように見える。ここでは そうした最近のトップツアープロの飛ばしの能力の変化に目を向けて、そのドライバーの飛距離のデータを分析し、その動向を探ってみた。
♦ 世界の飛ばし屋
下表は PGA のデータを基に作成したものだが これを見れば 1980年以降 ドライバーの平均飛距離が どのように伸びたかは 一目瞭然だ。1995年から 2005年までの 10年間に その飛距離は 飛躍的に伸びたが、ボールとクラブの進化が一段落した 2005年以降は #1 の選手の飛距離の伸びが全く見られないという状況であった。しかし、この数年の間に 300 ヤード以上飛ばす選手の数は 飛躍的に増えていることが分かる。2021年に平均飛距離が 300ヤードを超えた人は 61人だが 290ヤードになると 159人も居た。2022年には LIV ツアーが始まり ブライソン・デシャンボー、ダスティン・ジョンソン、ブルックス・ケプカのような 飛ばし屋のトップ選手が 何人も PGA ツアーを去ったが、平均飛距離が 300ヤードを超えた人の数は 98人と大幅に増えた。PGA ツアーは 半分以上の選手が 300ヤード以上の平均飛距離を持っているという時代に突入した。因みに。松山英樹選手は 2021年 299.9ヤード|62位、2022年 304.7|62位という記録を残したが 飛距離的には 平均的な PGA 選手ということになる。
年度 | #1 選手 平均飛距離 |
#1 選手名 | 300ヤード 超の選手数 |
#50 選手 平均飛距離 |
#50 選手 フェアウェーキープ率 |
1980 | 274.3 | Dan Pohl | 0 名 | 261.0 | 66.1% |
1985 | 278.2 | Tom Purtzer | 0 名 | 263.9 | 67.1% |
1990 | 279.6 | Andy Bean | 0 名 | 266.4 | 68.6% |
1995 | 289.0 | John Daly | 0 名 | 268.7 | 72.7% |
2000 | 301.4 | John Daly | 1 名 | 277.5 | 71.5% |
2001 | 306.7 | John Daly | 1 名 | 283.7 | 71.0% |
2002 | 306.8 | John Daly | 1 名 | 285.0 | 70.8% |
2003 | 321.4 | Hank Kuehne | 9 名 | 292.8 | 69.0% |
2004 | 314.4 | Hank Kuehne | 15 名 | 292.1 | 67.8% |
2005 | 318.9 | Scott Hend | 26 名 | 294.2 | 66.3% |
2006 | 319.6 | Bubba Watson | 20 名 | 295.5 | 67.0% |
2007 | 315.2 | Bubba Watson | 18 名 | 294.5 | 66.8% |
2008 | 315.1 | Bubba Watson | 13 名 | 293.3 | 66.9% |
2009 | 312.3 | Robert Garrigus | 13 名 | 293.1 | 66.8% |
2010 | 315.5 | Robert Garrigus | 12 名 | 292.4 | 66.9% |
2011 | 318.4 | J. B. Holmes | 21 名 | 296.3 | 64.8% |
2012 | 315.5 | Bubba Watson | 21 名 | 294.7 | 64.4% |
2013 | 306.3 | Luke List | 13 名 | 293.1 | 64.2% |
2014 | 314.3 | Bubba Watson | 25 名 | 294.9 | 64.3% |
2015 | 317.7 | Dustin Johnson | 26 名 | 295.1 | 65.3% |
2016 | 314.5 | J.B. Holmes | 27 名 | 295.5 | 64.7% |
2017 | 316.7 | Rory McIlroy | 40 名 | 298.3 | 63.7% |
2018 | 319.7 | Rory McIlroy | 60 名 | 301.4 | 66.05% |
2019 | 317.9 | Cameron Champ | 50 名 | 300.0 | 66.35% |
2020 | 322.1 | Bryson Chambeau | 72 名 | 301.9 | 63.74% |
2021 | 323.7 | Bryson Chambeau | 61 名 | 302.8 | 65.41% |
2022 | 321.4 | Chameron Champ | 98 名 | 306.5 | 63.45% |
年間のドライバーショットの平均飛距離で 300ヤードを越す選手が初めて出たのは 1997年で、その記録は ジョン・ディリー (John Daly) によって作られたが (302.0ヤード)、その年の 2位は タイガー・ウッズで 294.8 ヤード、そして、3位の選手が 287.5ヤードという状況で 290ヤード以上飛ばしていた選手は 2人しかいなかった。
1990年代半ばまでは バラタカバーの糸巻きボール全盛の時代であったが、その後、ウレタンカバーのボールが出現し さらには タイトリスト Pro V1 で知られる マルチレイヤーソリッドコアタイプのボールが普及した結果、状況は大きく変わった。(» 詳細)もちろん、理想的な打ち出し角とバックスピン量の組み合わせを可能にした大型ヘッドのドライバーや高度なカーボングラファイトシャフトの製造技術の進化も(» 詳細)飛距離のアップに拍車をかけた。また、ゴルフスイング分析用のビデオカメラやソフトウェア、そして、ヘッドスピードやボールの挙動の測定機器などを比較的容易にフィッティング(自分に最適になるようクラブを調整すること)やトレーニングに導入できるようになったことも 全体のレベルアップを促したと考えられる。
その結果、ツアープロがプレーするゴルフコースの距離も伸びるという結果になった。例えば、マスターズの行われるオーガスタナショナルは 1997年大会で タイガー・ウッズが 2位に 12 打差の -18 (270) という記録で優勝した年は 全長 6,925 ヤードだったが、2000年に それが 6,985ヤード、そして、2001年から 2005年の間に 7,270 - 7,290 ヤードという距離設定になり、2006年に 現在の 7,445 ヤードのコースになった。昨今のツアープロは 500ヤード以上のミドルホールをプレーしなければならないことも珍しくなくなった。そのような状況下、飛ばせることが有利なことは言うまでもないが 比較的 飛距離の短い選手が活躍していることも事実である。例えば、2008年のデータでは、ここ数年 世界のトップ 10 の座を維持してきた Jim Furyk (272.4ヤード、165位)、2007年 マスターズ・チャンピオンになった Zack Johnson (275.1ヤード、181位) のような選手も居る。
少し古いデータだが 2009年のマスターズのデータを見てみよう。各選手とも 5番ホールでは ボールを飛ばしていくので そこで 最長飛距離のドライバーショットを記録するが、その飛距離を比べたものが 以下のテーブルだ。ババ・ワトソンは(飛ばしたいこのホールで)349 ヤード 飛ばしている。
選手名 | ドライバーの最長飛距離 |
Bubba Watson | 349 yards (5番ホール) |
Phil Michelson | 337 yards (5番ホール) |
Tiger Woods | 322 yards (5番ホール) |
Angel Cabrera | 315 yards (5番ホール) |
石川遼 | 306 yards (5番ホール) |
片山晋吾 | 300 yards (5番ホール) |
今田竜二 | 288 yards (5番ホール) |
♦ 日本選手の状況
大雑把に言えば、日本のツアープロの飛距離は 以下の表から分かるように 世界のレベルに比べると 約15ヤード 短いと言っても良いだろう。ただし、日本のトーナメントは 気候的に 温度が低く湿度が高いので 気温が高くドライな アメリカのデータとは条件が違うのも事実である。また、1995年の尾崎将司選手の記録は アメリカで飛ばし屋として知られるジョン・デイリーの記録と比べても 僅かに 1.3ヤード 短かったものの 遜色のないものだったことが分かる。因みに、石川遼選手の平均飛距離は 2010年が 296.8ヤード(日本 3位)、そして、2011年は 293.7ヤード(日本 10位)だったが、2014年 291.0ヤード(PGA 80位)、2015年 289.2ヤード(PGA 100位)、2019年 300.9ヤード(日本 9位)となっている。因みに、2019年に日本人のトップになったのは 幡地隆寛選手で 315.3ヤードも飛ばしている。一方、このところ活躍している松山英樹選手は 2014年 294.8ヤード (PGA 51位)、2015年 294.5ヤード (PGA 57位T)、2016年 294.5ヤード (PGA 65位) であったが、2017 / 18 / 19 / 20年には 302.9 / 302.0ヤード / 303.0 / 304.4ヤード (PGA 27 / 49位 / 31位 / 34位) と飛距離を伸ばしている。なお、2015年の賞金王になったジョーダン・スピースは その年に 291.8ヤード(PGA 78位T)と松山選手より飛んでいない。他方、2020年に FedEx チャンピョンになったダスティン・ジョンソンは その年に 311.0ヤード(PGA 10位T)飛ばしている。
年度 | #1 選手 平均飛距離 |
#1 選手名 | 300ヤード 超の選手数 |
#50 選手 平均飛距離 |
#50 選手 フェアウェーキープ率 |
1995 | 287.7 | 尾崎 将司 | 0 名 | 267.3 | - |
2000 | 293.5 | 小山内 護 | 0 名 | 269.7 | - |
2005 | 303.0 | 小山内 護 | 2 名 | 282.5 | 54.5% |
2010 | 304.3 | 額賀 辰徳 | 2 名 | 280.1 | 51.2% |
2011 | 299.2 | K. バーンズ | 0 名 | 279.5 | 52.1% |
2012 | 305.9 | 額賀 辰徳 | 1 名 | 282.9 | 53.7% |
2013 | 298.3 | B. ジョーンズ | 0 名 | 279.4 | 53.9% |
2014 | 299.2 | I. H. ホ | 0 名 | 278.8 | 55.6% |
2015 | 298.9 | 額賀 辰徳 | 0 名 | 275.9 | 55.7% |
2016 | 311.3 | C・キム | 2 名 | 277.4 | 54.8% |
2017 | 314.2 | C・キム | 2 名 | 283.9 | 53.7% |
2018 | 302.9 | 額賀 辰徳 | 3 名 | 283.8 | 54.6% |
2019 | 315.8 | C・キム | 13 名 | 287.8 | 54.1% |
20-21 | 313.0 | 幡地 隆寛 | 8 名 | 284.6 | 56.1% |
世界との差は 飛距離だけでなく、フェアウェイキープ率の違いにもあることが分かる。コース設定が同じではないので 一概には比べられないのであろうが アメリカツアーと日本ツアーの差は キープ率にして 10% ポイント程度の差がある。
♦ 女子プロの飛距離
女子 (LPGA) の場合も 道具の進化と共に その飛距離は伸びた。最近の記録を見ると 飛ばし屋の選手は 平均飛距離が 280 ヤード越えをする選手も居るが、男子のケースとは 異なり、日米の格差は少ない。一方、世界のレベルでは 男子との差が 約30 〜 40ヤードであるが、女子の最も飛ばす選手は 男子の最も飛ばさない選手と ほぼ同じか それよりも 少し飛ぶと言う状況である。
かつての女子の飛ばし屋には アメリカでは ローラ・デービス (Laura Davies) ミッシェル・ウィー (Michelle Wie)、日本では 福島晃子選手などが居て こうした選手は 男子の比較的飛距離の短い選手をアウトドライブする飛距離を持っていた。その他、過去に活躍した女子のトップ・プレーヤーの多くも飛ばし屋である。アニカ・ソレンスタム (Anika Sorenstum) ロレーナ・オチョア (Lorena Ochoa) などは 全て 260ヤード以上の平均飛距離を誇った選手である。
年度 | #1 選手 平均飛距離 |
#1 選手名 | 260ヤード 超の選手数 |
#50 選手 平均飛距離 |
#50 選手 フェアウェーキープ率 |
2005 | 270.3 | Brittany Lincicome | 8名 | 250.2 | 75.4% |
2010 | 274.5 | Michelle Wie | 13名 | 250.5 | 68.4% |
2011 | 277.3 | Brittany Lincicome | 20名 | 251.1 | 73.5% |
2012 | 276.1 | Brittany Lincicome | 19名 | 252.8 | 73.6% |
2013 | 274.9 | Nicole Smith | 14名 | 251.3 | 74.4% |
2014 | 271.5 | Brittany Lincicome | 11名 | 252.1 | 75.8% |
2015 | 274.4 | Joanna Klatten | 15名 | 252.4 | 74.9% |
2016 | 281.4 | Joanna Klatten | 35名 | 257.4 | 73.1% |
2017 | 279.3 | Maude-Aimee Leblanc | 29名 | 256.1 | 76.0% |
2018 | 275.0 | Yani Tseng | 31名 | 256.5 | 74.4% |
2019 | 287.5 | Bianca Pagdanganan | 36名 | 257.7 | 73.9% |
2020 | 283.7 | Bianca Pagdanganan | 36名 | 255.1 | 75.4% |
2021 | 290.8 | Ann van Dam | 58名 | 261.4 | 75.6% |
なお、宮里藍は どちらかと言えば飛ばないプレーヤーのイメージがあったが そうでもなく 2013年は 242.5ヤード(101位)。一方、上田桃子は 2008年に 256.9ヤード (22位) だったが、その後は 240ヤード台の距離で推移している。日本選手では 福島晃子に続く 有名選手の飛ばし屋として 原英莉花、勝みなみ、穴井詩、葭葉ルミなどが居り 平均飛距離も 250 〜 260ヤード前後のレベルであるが、2020年にデビューし 2021年からは アメリカを主戦場にしている笹生優花は それ以上の飛ばし屋で 2021年の記録は 272.0 ヤードで 12位であった。因みに、アメリカ LPGA の 2019年のドライビング・ディスタンス1位になった パグダンガナン選手は ジュニア時代に フィリピンで笹生優花と一緒にプレーしていた同郷・同世代の選手である。» さらに詳しく見る