パターの選び方|基礎から専門知識まで
♦ パター選びの条件
パターは 狙った方向に スムースにボールを転がせるか 否かで その良し悪しが決まる。まずは 理屈抜き「入る気がする」パターを選ぶことが大切だが、同時に、自分に合っているパターが どんなものかを判断する上で重要な チェックポイントを抑えておくことが肝要だ。具体的には (i) アラインメントの正確性、(ii) 距離コントロールの精度、(iii) 好ましいフィーリングと打感、(iv) ボールがスムースに転がることなどがあるが、他にも、チェックしておきたいポイントは 以下のテーブルの通り 幾つもある。
項目 | 選択肢 / 注意事項 |
1) タイプ | 1) ブレード 2) ピン 3) マレット 4) ネオマレット 5) その他 |
2) アライメント | 方向を合わせ易い顔(直線や円など、色のコントラストも) |
3) ロフト | 2° ~ 5°(2.5° ~ 4° が主流) |
4) ネック | センター vs ヒール・シャフト / ストレート vs オフセット |
5) バランス | フェース・バランスド vs トー・バランスド |
6) 素材と加工 | 金属(軟鉄、鋳鉄、アルミ、銅合金)、樹脂のフェースインサート、削りだし(ミルド) |
7) 長さ / 重量 | 32" ~ 36"(インチ)が標準 / 中尺、長尺も、ヘッド重量 350g、総重量 500g 前後が標準的 |
8) グリップ | 形状、太さ、材質(近年は 太めなグリップの人気が高い) |
9) 価格 | 3,000~150,000円(1万~5万円が売れ筋)ビンテージの高級品も |
10) ブランド | オデッセイ、スコッティキャメロン、テーラーメイド、ミズノ、プロギア|PRGR、ベティナルディ、クリーブランド、プロギア、ヨネックス、本間|HONMA、他 |
狙った方向に スムースにボールを転がせる 自分にとって ベストなパターを見つけるために どんなポイントをチェックすれば良いのか。そんな観点から パターのヘッドデザインや 注意すべきパターのスペックなどについて 以下に順を追って 少し詳しく解説する。
♦ ヘッドのデザイン
パターには様々なスタイルのものがあるが ヘッドの形状によって 大きく 1) ブレード タイプ、2) ピン タイプ、3) マレット タイプ 、そして、マレットの変形である 4) ネオ マレット タイプ に分類される。近年は 2) の ピン タイプ、3) の マレット タイプ、そして、4) の ネオマレット タイプのパターが最も良く使われているが、中間的なデザインのパター(例えば、エル字マレット とか かまぼこ型のピン パター)や 5) のような変則的なデザインのパターも見られるようになっており 従来の概念では 分類に困ってしまうようなパターがあるのも事実だ。また、アンカリングに係わるルール変更後も 中尺、長尺のパターを使う人もおり、多種多様なクラブが市場には 出回っている。
パターの形が 現代のパターのようになったのは 1960年代になって発売されたピン パター (PING ANSER) の頃からのことである。ピン タイプのパターは スウィートスポットを広げる目的で 右のイラストのような ヒールと トー側に ヘッドの重量の多くを配分したデザインのヘッドと クランク シャフトのように曲がったクランク ホーゼルのネックが特徴のパターで 今でも この形のものを使う人は 非常に多い。1980年代には ピン パターを使った選手が 26/40 という 驚異的な勝率で メジャー優勝を果したという記録もある。
ピン パターの出現から約 30年、新しいパターの時代の幕開け的デビューを飾ったのがオデッセイ (Odyssey) のマレット パター (Rossie I / II) である。それは ストロノミック (Stronomic) という樹脂をフェースにインサートしたパターで それにより マレット パターの打感改善という課題をクリアーしたものだ。オデッセイは その後も様々なタイプのフェース インサート パターを発売し パターの No. 1 ブランドになった。また、フェース中央に 樹脂をインサートすれば自然と Peripheral Weighted のデザインになるが、そうしたパターは 芯をはずしても距離があまり落ちないというメリットもあり、ブレード タイプのパターに取って代わり 近年は ツアー プロの間でも ポピュラーなものになっている。
最近のマレットやネオ マレットのパターには クラブヘッドの重心深度(クラブフェースから ヘッドの重心までの距離)を深くすることで クラブフェースの下の方に当たったパットでも ボールの転がりを良くしようとするデザインや 重心距離が長く ヘッドの慣性モーメントが大きくてクラブヘッドが返り難い(ストレートのパッティング ストロークに適した - 詳細後述)デザインのパターなども出回っている。さらには 視覚面から ストレートにクラブを振り易くなるような工夫(例えば、クラブヘッドにラインや複数の円を配置)などの工夫もなされる中、ヘッドの形状や大きさ、総重量、重量配分などの面で 様々なデザインのパターが作られており 選択肢の幅は広がっている。
また、マレット パターは 基本的に 指の上にシャフトを乗せ クラブを水平な状態でバランスさせて フェースが真上を向く、所謂、フェース バランスド (Face Balanced) パターであるが、そうしたパターは クラブをストロークする時に フェースがスクウェアに保たれ易く、右図のようにストレートにクラブを引いて出す意識でパッティング ストロークをする人に適していると言われている。それに対し、同様に指の上にパターのシャフトを置いてバランスさせた時に クラブヘッドのトー(先)が 下を指すようなデザインのパターが トー バランスド (Toe Balanced) パターで 右図のアークの(インサイドに引いて インサイドに出す)ような意識で パッティングをするタイプの人に適したパターだと言われる。因みに、ピン タイプのパターは どれも トー バランスド パターであるが フェース バランスド パターと トー バランスド パター の中間的なものを含め、フェース バランスドでないパターを ノンフェース バランスド パター (Non-face Balanced Putter) と言うこともある。
一方、パターには 2° ~ 5°のロフトがあるのが一般的で 芝の短い 早いグリーンには ロフトの少なめのものが適していると言われている。また、ボールを ヒットする時のシャフトと地面が成す角度が垂直になっているとすれば(標準的なグリーンで)パターのロフトは 3° ~ 4°が望ましいと言われるが、ハンド ファーストになるスタイルでパットをするのであれば 応分に ロフトが多めの、そして、その逆であれば 少なめのパターが適していることになる。パターのロフトは どんなに芝を短く刈ったグリーンでも ボールが芝に少し沈み込むから 好ましいボールの転がりを得るためには 初動時にボールを 適度に浮かせる必要があることから 必要である。そして、それに 最適なロフトが 3° ~ 4°で、逆に言えば、そのパターのロフトを上手に使うことが パット成功率を上げる秘訣なのだ。( » 参考)以下は ロフト別のボールの転がりを(最適、不足、過剰の順に)示した動画である。適度なボールの浮き方が (Optimum Roll) どのようなものかに注目して見て欲しい。
なお、フェースに 前述した(エラストマー系)樹脂を インサートしたパターの人気が近年高くなっているが、エラストマーなど樹脂のインサートは 柔らかい打感が得られるメリットがある反面、ボールを打った時の音と振動によるフィードバック、そして、距離感とスピード感が メタル フェースのパターに比べて 劣るという欠点が 指摘されており、軟鉄やアルミを 削りだし フェースに 精密機械(ミルド)加工で グルーブ(溝)や 凹凸を刻んだようなメタル フェースのパターを 比較的高価なものではあるが 一方で 高く評価する人も居る。
♦ シャフトとホーゼル
下図 A) のように シャフトやホーゼル (ネック) が曲がっていて フェース面が シャフトより後ろにあるものをオフセット パターと呼ぶが、B) のように シャフトが ヘッドのヒール側に付いているものを ヒール シャフト、そして、C) のように中心に 近いところに装着されたものを センターシャフトのパターと呼ぶ。
通常、芯はパターフェースの中央近くにあるが、ネックのデザインなどによっては 多少ヒール側に 芯が偏っているものもあるので(L字パターで良く見られる現象)自分のパターの芯の位置は 良く確認しておくべきだ。パターのフェース面を上に向け、そのフェース面の色々な箇所でボールを弾ませて感触をチェックすれば、どこに芯があるのかが確認できるだろう。パターの中央に線が引いてあるようなもので その位置と芯の位置が一致しないパターもあるので注意して欲しい。
シャフトの長さは 32" ~ 36"(インチ)が標準であるが、長い中尺(Belly Putter などとも呼ばれる)や長尺のパターの選手を テレビで時々見ることがあるように そうしたシャフトが長いパターも一部の選手によって使われている。しかし、2016年からストロークの基点を作ってストロークをするアンカリングが禁止されたこともあり、近年、そうしたパターは 人気がなくなっている。
シャフトの長さは アドレス時に 目の真下にボールが来る長さがちょうど良いとされているが 長過ぎれば ボールは 体から離れ過ぎるし、短過ぎれば ボールが体に近くなり過ぎるという現象が起きる。また、ハンド ダウンに構えれば シャフトが寝てくるので 標準的なライ角のパターでは トー側が浮くことになり、その逆であれば シャフトは 立ってくるため ヒール側が浮くことになる。従って、自分のフォームに最適なライ角と言うものが存在する訳で 自分にとってベストな シャフトの長さとライ角という観点から パターは チェックする必要がある。ボールをパターヘッドの芯で捉えるという観点から 最適なライ角のパターが好ましいのは言うまでもないが、パッティング フォームを変えた場合は それまでは合っていた ライ角(シャフトの長さも)が 最適なものでなくなる可能性もある。
♦ グリップ
パターのグリップは それ以外のクラブと異なり、横断面に 凹面がなく、左右対称で グリップの長さ全体にわたって概して同形であることを条件として、円形でない横断面をもつことができるというルール上の規定がある。従って、殆どのパター用グリップは 円形でなく、クラブフェースを スクウェアーに セットし易い 平らな面を持つデザインになっている。
また、パターは クラブの握り方のバリエーションが多いこともあって 様々なデザインのグリップが装着された商品が市販されている。一般的な シャフトの長さのパターだけで見ても、そのグリップの形状、太さ、重さなどは 製品によって大きく異なるが、近年は 太めのグリップを使用するツアー・プロが増えたこともあって 昔に比べて 太めのグリップが良く使われるようになった。右のグリップは その一例で ジョーダン・スピースが使用することで人気になったグリップ(Super Stroke FLATSO 1.0)である。このグリップの特徴は グリップの太さが ほぼ 均一で(ノンテーパー)手首の余計なローテーションや動きを抑え、パッティングのストロークを安定させることが出来る点である。一般的な テーパー形状のグリップに比べ シャフト側(右利きで通常にグリップした時の右手)が太く感じ、右手に余計な力が入り難くなるそうだ。このグリップは 太めのグリップが多い Super Stroke の製品としては MID サイズだそうだが、通常の基準でみれば 太めのグリップに分類されるだろう。
一般的に、太めのグリップは ヘッドの大きなマレットに、また、細めのグリップは 小さ目なヘッドの ピン タイプのパターに合うと言われているが ジョーダン・スピースが スコッティ キャメロン 009(ピン タイプ)を使用していることからも MID サイズ位の太さであれば どのタイプのパターにも合う可能性があると言えるだろう。
一方、アンカーリングに係わるルール変更で 最近は 使用する選手の数が激減した長尺、中尺のパターだが、ルール違反とならない変則的なパターグリップには 中尺や長尺パターに良く使われる長いグリップ、また、写真右のような 左右の手が離れてクラブを握れるようなスプリット グリップも 一定の条件を満たせば 使用することが許されている。
♦ 最後に
いずれにしても、シャフトの長さ、グリップの重量、太さ、形状などによって、同じヘッドのパターでも感触が大きく異なるので、パターの長さ調整やリグリップの取り換えなどはそうした点に十分注意を払って行うべきだ。また、パターによってはライ角が異なるので パター選びでは 自分のパッティング フォームや スタイルに ライ角が合っているか といった点もチェックして欲しい。さらに、クラブの総重量も 軽いものから 重いものまで(平均的なものはヘッド重量 350g、総重量 500g 前後)その幅が大変広いし、ヘッド/グリップの重量配分で 感覚は大きく変わるので そうした点にも 注意を払うべきだろう。最近は ヘッドの重量を(中には グリップの重量も)調整できるものまで登場している。
少し前の話になるが ラインを合わせ易いデザイン(写真右参照)、慣性モーメントの大きなヘッド、順回転のボールが打てるフェースやグルーブ、打感やバランスを良くする目的で各種樹脂と金属を組み合わせた比較的複雑な形状のパターなどが 新製品として多く出回った。そうしたデザインには見た目の特徴だけでなく、それなりのメリットがあると思われるが、そんな流行も一段落した観があり、最近は また スコッティー キャメロン(ピン タイプ)や エル字マレットのパターが良く売れているようだ。しかし、パターは ただ目新しいとか 人気があるとかの基準で選ぶのではなく、自分のパッティング ストローク(例えば、ストレートにクラブをストロークするのか、そうでないのかなど)を十分考慮した上で 理に適ったデザイン フィーチャーのパターを選ぶようにして欲しい。
どんなパターが自分にとって最適なのかを考える時に 見た目の美しさ、好みの形や色なども重要だが、当然、パターの道具として機能、即ち、狙った方向に スムースにボールを転がせるパターを選ぶことが大切だ。その観点からは A) アラインメント、B) フィール、C) 距離のコントロール の三つのポイントが重要になる。何がベストかは 使う人によって かなり異なってくるが それ故に 多種多様なパターが市場には 出回っているとも言える。
チェック・ポイント | 評価すべき項目 |
A) アラインメント | ターゲットに対してフェース面を スクウェアにし易いデザイン |
B) フィール | 構えた時、クラブを振った時の安定感、球を打った時の打感 |
C) 距離のコントロール | 距離、スピードのコントロール、ミス・ヒットに対する寛容性も |
D) アピール | 見た目の美しさ、好みに合った形や色など、所謂、格好良さ |
A) のアラインメントであるが、パターをボールの後ろに置いた時に 上手く構えられたと感じなければ パットが入るという感覚は生まれてこない。また、パターを 引いて出す、即ち、ストロークしてボールを ヒットした時に構えた時のアラインメントの状態が再現できるという感覚も重要だ。前者が静的アラインメントとすれば、後者は 動的アラインメントで、短いパットが入る という感覚は この二つのアラインメントが確り出来て始めて生まれるものである。ヘッドのデザイン、即ち、形、色、ヘッドに刻まれたラインやパターンなどが 大きくそれに影響するが、例えば、右の (a) (b) のパターのどちらが 貴方にとって このアラインメントという観点から 良いのかを 考えて欲しい。(a) のパターは アラインメントという観点から様々な工夫がなされているものだが、(a) が静的、動的 アラインメントにおいて 必ずしも 優れているとは言えないはずだ。パターを使う人が そのパターを どう感じるのかがポイントである。
B) のフィールも 極めて 大切なポイントである。構えた時、クラブを振った時の安定感やボールを打った時の打感である。パターの素材には 各種金属からプラスチックまで 様々なものが使われるが、ステンレス・スチールのヘッドで作られたパターが 最も 基本的なデザインだと言える。しかし、ステンレスでは 多くのプレーヤーが望むところの 柔らかな感触が出ないため 昔から ブロンズ(銅と錫の合金)、アルミ、軟鉄などが使われてきた。(» 素材のお話)一方、近年は ストロノミックに代表されるエラストマーというプラスチックとゴムの中間的性質を持った材料が クラブのフェース、もしくは フェースの後ろに入れるクッションとして、柔らかな打感やヘッドの重量配分の工夫などの目的で使われたり、タングステンのような重い金属が やはり ヘッドの重量配分の工夫に使われるようになっている。そうした工夫の殆どは「フィール」と「ディスタンス・コントロール」に配慮したものである。
C) の距離のコントロールは フィールと密接に関係するものだが、トータル パット数に 最も 影響を及ぼすのが ディスタンスコントロールの良し悪しである。そうした意味では 芯を 外して打ったボールの転がりについても 考えてみるべきだ。つまり、スウィート スポットから 1 cm 外れたところでボールを打った時に そのパットが どの位 短くなるか。100 転がるべき所が 95 になるのか 85 になるのか。そうしたロスを ミニマムにしてくれる メリットがあるパターを選ぶのも一案であろう。ミス ヒットのことばかりを考える必要はないが そうしたことも考慮の対象にすべきだと言うことだ。
世界の男子トップ プレーヤーには ブレードや ピン タイプのパターを使う人が昔は多かったが 最近は 様々なスタイルのパターを使う人が一気に増えた。いずれにしても、自分のパター選びには 自分がどんなパッティング スタイルなのかを考えた上で それに 最も 適したデザイン フィーチャーのクラブを選ぶべきだろうが、科学的に説明の付かない要素(例えば、入る気がするような顔)についても 十分考慮する必要があるのは言うまでもない。