♦ ゴルフ場利用税の概要
2003年以降は 年齢 18歳未満と 70歳以上の人は 非課税(場合によっては 65歳以上、70歳未満の人は半額)と変更されたが、通常、高齢者を除く 大人がゴルフをするとゴルフ場利用税としてゴルフ場利用に対し 600円 〜 1,200円がゴルフ場の等級に従って徴収される。1日に対する最高税額は 1,200円だが、最低額は都道府県によって異なり 300 〜 500円で 標準税額は 800円となっているが、最低額の利用税でプレーできるゴルフ場は 殆どない。個々のゴルフ場の利用税額は 最高額を超えない範囲内で それぞれの地方自治体(都道府県)が独自に決めることが出来、その税収の 7割はゴルフ場のある市町村に交付されている。しかし、その税額決定の根拠などの詳細を開示しない自治体も多いから、納税者であるゴルファーには この税の根拠や合理性などが十分説明されていない。深く考えずに支払っているゴルファーも居ると思うが、その実態を知って その不合理、不公平さに疑問を感じない人は少ないはずだ。
消費税のように税率が定められている訳でもなく、また、酒税やガソリン税のように一定量に対して定額が課されるものでもないが(詳細を開示している自治体の説明資料によれば)原則は対象となるゴルフ場の平日ビジター料金を基準に、ホール数、クラブハウスなど付帯設備の豪華さ、また、芝の状態などを加味し、それぞれのゴルフ場を利用税額で 前述の最低税額から 1,200円まで、50円刻みで等級付けして課税するシステムである。何らかの理由でゴルフ場がプレー料金を大幅に下げても 利用税が応分に安くなることは基本的にない。実際にゴルフ人口が減少し、プレー料金が下がっている現状でも 利用税は下がっていない。昨今は 倒産や売却されるゴルフ場も多く、封鎖されメガソーラー発電畑になるゴルフ場も少なくないが(それも売電価格が下がるから、今後は見られなくなろうが)ゴルフ場利用税の減額とか、撤廃がなされる気配は見られない。
♦ ゴルフ場利用税の不合理な側面
このように、ゴルフ場利用税は ゴルフ場利用 1日に対する税を定額で徴収する制度で、少しでもプレーをすれば 1日分の定額が徴収されるという極めて不合理なものである。つまり、ゴルフ場でゴルフをする限り、プレーしたホール数や時間に関係なく かなり高額な税金を徴収される訳だ。夕方に少し時間があるからハーフを一人とか二人で 1時間半くらいの時間でちょちょっとプレーしようと言うような利用とサービス、また、手軽にゴルフの経験をしてもらうカルチャースクール的な(学生に対する教育活動は非課税だが)サービスなどの提供をディスカレッジする側面もある。例えば、プレーフィーの 5% のように定率での課税であれば、1,000円のサービスには 50円(10,000円なら 500円)の利用税で、消費税が 10% なら、1,000円のサービスに対して合計 1,150円を支払えば良いことになる。利用の程度に関係なく 定額の 600円や 800円の税金を徴取されたのでは ゴルフをする人は 合計 1,700円とか 1,900円を支払う必要があるのだから不合理極まりない。
この税金の徴収法には 他にも疑問が残る。例えば、田舎のゴルフ場が平日 4,500円、昼食付きの料金で営業する場合、10%の消費税だと、利用税を 600円としても、消費税は 355円だから トータルで 955円の税金が徴収される。この時、3,545円がゴルフ場の収入になる計算であるが、昼食代を 1,000円と仮定すると、2,545円のプレーフィーに対して 600円のゴルフ場利用税だから、その税率は 23.6% という計算になる。一方、平日 20,000円、昼食付きの料金の高級ゴルフ場は 昼食が 2,000円としても、プレーフィー 16,800円に対する利用税が 1,200円であれば その税率は 7.1% になる。つまり、税率でみると高級ゴルフ場の税率は低く、庶民がプレーするゴルフ場の税率は高く、税率比較では 3倍以上のケースさえ見られることになる。これでは 富裕層に対して負担を軽くし、庶民や若者のためのゴルフ場いじめをしていると言われても仕方あるまい。
♦ アメリカと日本の違い
因みに、アメリカではゴルフをはじめ、各種スポーツの施設使用料などは消費税が免税になるが、昨今の財政難でゴルフに消費税を課す案が一部の地方で浮上している。しかし、市民の健康に資するアクティビティーに課税するのはナンセンスとの意見が大勢を占め、どこでも廃案になっている。ゴルフ場利用税的なものがないだけでなく、消費税を免税にするアメリカに対して、日本は二重課税で利用税と消費税を徴収しているのである。ただ、アメリカの場合は、ゴルフ場建設と宅地開発とがセットで行なわれるケースが多く、地方自治体はゴルフ場が出来ることによって比較的高所得層の人口流入 並びに その住民からの固定資産税の増加が見込めるのである。住宅に対する固定資産税率が高いアメリカでは、地方自治体の税収構造が違うと言うこともあるが ゴルフ場の多くはゴルフコミュニティを形成し、その住民の殆どがメンバーになると言うスタイルで経営、運営されるものが多いなどの違いはある。
♦ 無視される廃止要望
さて、日本では、日本ゴルフ協会 (JGA) の提唱により、平成 10年から関連団体が一致協力して、ゴルフ場利用税撤廃のために全国のゴルフ場、練習場、トーナメント会場などで署名運動を実施して 838万余人からの廃止要望の署名と共に撤廃を要望していたが、その要望が聞き入れられることはなかった。この経緯をご存知の方は多いはずだ。政府は 2014年の総選挙が終わって直ぐの 12月 20日、廃止論が持ち上がっていたゴルフ場利用税を またも 現行のまま存続させる方針を固めた。当時の高市早苗総務相が選挙前の 11月 7日に開かれた閣議後の記者会見で ゴルフ場は山間部に多く、アクセス道路の整備ほか、地滑り対策、ごみ処理、農薬や水質などの環境対策と ゴルフ場にからむ行政の需要があると同時に、財政が厳しく 山林原野の多い市町村の大切な財源であると撤廃に後ろ向きな発言をしていたので 予想はされていたものの残念な結果になった。
同税をめぐっては 2014年 11月の参院予算委員会で下村博文文部科学相が「スポーツでゴルフだけが課税されている。利用税は廃止すべきだ。」と主張し、超党派のゴルフ議員連盟会長の麻生太郎財務相も「五輪の種目にもなっているゴルフに税金がかかるのはいかがなものか」と指摘していた。そして、2019年に消費税率が 10% に引き上げられ 地方税も増えた訳だが それでもゴルフ場利用税に対する配慮は一切なされなかった。
このような不合理、不公平な課税が日本で行われ続ける最大の理由は 合理性や公平性を無視した財源確保のための担税力に応じた課税の概念であり、既得権者の政治に対する影響力だと考えられる。一方的に税を徴収する側の論理と根拠が理不尽な価値観を生み、ゴルフ場利用税のような先例性だけを根拠にした課税がなされていたのでは 自由と平等を標榜する民主主義国家の制度とは言い難いものだ。加えて、この税金がゴルフ場の施設が有効利用されるための配慮を欠いたものであることも見逃せない。結果的には、一方的で配慮を欠いた課税による税収に依存する地方自治体も そこにあるゴルフ場の苦しみを味わう訳だが、庶民と若者の味方のゴルフ場とそうしたゴルフ場でプレーを楽しみたい人達が理不尽な税制の犠牲になる未来を我々はただ見ているだけで良いのだろうか。
♦ 撤廃されないのであれば
このように、ゴルフ場利用税が撤廃されない本当の理由はゴルフ場にからむ行政の支出が大きいことではなく、ゴルフ場が多い市町村の大きな財源の一つに位置づけられているからである。しかし、ゴルフ人口が減少し、ゴルファーの高齢化が進む中、現行のゴルフ場利用税がゴルフ場の倒産や封鎖に拍車をかけているのは明白で、このまま何もしなければ、ゴルフ場が多い市町村は そのゴルフ場利用税という財源を失うだけでなく、そこから得られている固定資産税、雇用関連の歳入の喪失、加えて、地域経済の疲弊という結果も招き兼ねないだろう。そこで、ゴルフ場利用税がどうしても撤廃出来ないのであれば、せめてその在り方を変えて、公平性と合理性を考慮した税にすることを考えるべきではないだろうか。そうした観点から、国や地方自治体に何が出来るか、また、何をすべきかと言うことを考えてみたい。
まずは、ゴルフ場利用税の在り方について公平性と合理性という観点から考えてみよう。前述のように、現行の1日のプレーに対して定額という制度の問題点である。ゴルフ人口を増やす試みとして、世界的に注目されているのが、9ホールで完結するゴルフの推奨である。そうしたことをやり易くするためにも、1日に対する定額徴収ではなく、プレーフィーに対するリーズナブルな定率 (例えば、5%) での課税に変更するのである。また、市町村の財源確保が目的であれば、税収の 7割ではなく 9割以上をゴルフ場のある市町村に交付した方が良いだろう。そうすれば、市町村の税収を極力確保しつつも、より公平で合理的な税の徴収が可能になるはずだ。そうなれば、企業努力の余地も増えるし、前述のような 20% を超えるような税率による不公平感も応分に解消されよう。時間とお金にゆとりのない若者が低価格のゴルフ場で 9ホールのゴルフを夕方に楽しむと言うようなプレー環境も生まれ易くなるのではないだろうか。
また、少し視点を変えた試みも考えられないだろうか。地方自治体の中には、市民のためにカルチャー教室的なイベントを行ったり、サポートしている市町村は少なくないが、ゴルフ教室やゴルフと健康をセットで推奨するようなプログラムとなると皆無である。ゴルファーが増え、ゴルフ場が栄えれば 税収が増える地方自治体が、それに資することを何もしない。市町村が そんなことに資源を投入すべきではないと言う人も居ようが、そんなことはないはずだ。また、ゴルフ場にある稼働率の低い施設や資源、サービスなどの有効利用を助けるために、市町村が協力する。例えば、ゴルフ場のコンペルームを会議室や教室に使えるようにしてみる。部屋の賃料が収入になり、加えて、レストランの売り上げが上がれば、一石二鳥だろう。さらに、ゴルフ場に来るノンゴルファーに、そこでゴルフ教室の宣伝をするのも一案だろう。様々なことが出来るはずだ。ゴルファーの数が増えれば税収も増えるのである。
今まではゴルフをする人の方が他のスポーツや趣味をする人より担税力があると判断され、且つ、ゴルフをする人が少数派で政治的な影響力を持たないことっもあって、ゴルフ場利用税撤廃の訴えは無視され、一方的に国家権力によって ゴルファーはゴルフ場利用税を支払わされてきた。悲しい現状だが、ゴルフ場利用税のような税金を課してきたのは世界中で日本だけである。そんな理不尽な税負担を強要されて黙っている おとなしい善人が損をする社会でなくすためにも 不公平で不合理な税制が早く解消されるような抜本的な税制改革がなされることを切に願うものである。そして、撤廃が不可能なのであれば、前述のような税制改革を念頭に、ゴルフ業界と国、地方自治体が協力して現状を少しでも改善していく努力が必要なのではなかろうか。