慣性モーメント (MOI) とは
♦ 物の重心と慣性モーメントの関係
質量の中心 もしくは 重力の作用点が 重心 (Center of Gravity) であるが それが どこにあるかによって ものの座りや それを回転させるのに必要な力は 変わる。慣性モーメントの大きさは 回転運動体の重量と その回転軸から回転運動体の重心までの距離の二乗に比例して増減する。慣性モーメントが大きくなれば 回転させるのに大きな力が必要になるから 回転し難くなり、逆に それが小さくなれば 必要な力は 小さく、簡単に回転させることが出来ると言う理屈だ。つまり、大雑把に言えば、大きなヘッドで その重心が シャフトからより遠い所にあるクラブのヘッドの慣性モーメントは 大きくなると言うことだ。
♦ クラブの慣性モーメント
クラブヘッドの慣性モーメントが クラブのスペックに明記されることも多くなったが 前述のように シャフトを軸にした回転を し難いクラブは 慣性モーメントの大きなクラブと言うことになる。ドライバーでは 操作性は良くないが 曲がり難いクラブ という仕様になるだろう。しかし、フェース角や重心角の設定などが悪ければ、常時、プッシュアウト、または、引っ掛けるようなクラブになる可能性もあるので 要注意である。また、パターでも 同様の効果を狙った 慣性モーメントの大きなパターが 数多く出回るようになっているが 一長一短で、慣性モーメントの大きなパターが 必ずしも 良いパターと言う訳ではない。
一方、クラブフェースの向きとは 関係のないところの慣性モーメントもある。例えば、ドライバーのように シャフトの長いクラブの MOI が クラブを振るという観点から 大きなものになるのは 前述の説明からも 容易に理解できるものと思うが、クラブのスイングウェートが MOI に どのような影響を及ぼすのかも 想像がつくだろう。クラブを振るという観点から MOI の小さい 軽量のクラブが スイングスピードを上げるためには 好都合と言う考えもあるが、ご存知のように クラブが 軽過ぎたり、短すぎれば 操作し難いクラブになる。また、チョークアップして グリップを短く持つことの影響は ただ単に シャフトが短くなるだけでなく、MOI に(二乗の効果で)変化を与えるから 飛距離を抑えたい時に 大変 効果的なのだ。
♦ 回転軸上に重心をキープ
一方、ボディーターンという観点からは 重心を 出来る限り 回転軸上に置くことで その慣性モーメントを小さくすることが出来るから 速くて 安定した体の回転が可能になる。スイング中に体が大きく左右にシフトするような動き、所謂、スウェイをすれば 体の重心が 回転軸から 大きく外れる訳だから 慣性モーメントは大きくなり、スムースに ボディーターンをすることは難しくなる。また、腕を横に振れば 腕が体の回転軸から離れたところを動くことになるから ボディーターンの慣性モーメントは 大きくなり、同様のことが起きる。腕の動きを 体の動きから切り離すイメージで、左腕が左肩の付け根を中心に縦の回転運動をするようにし、腕と体の回転軸の位置関係が(ボディーターンに係わる慣性モーメントの観点から)一定になるように 工夫してみると 良い結果につながる可能性が高いはずだ。
♦ 慣性モーメントに逆らわない
以上が 慣性モーメントに係わる簡単な説明であるが ゴルフが難しいのは そのスイングやストロークに 幾つもの慣性モーメントが関与していると言えるからかも知れない。理想的なスイングでは 腕が落ちて 遅れて入ってくるクラブを 手首が絶妙なタイミングで リリースし クラブヘッドを加速する訳だが、その絶妙なタイミングが 体の回転とバランス、腕の振り、手首の役割などに関与する幾つかの慣性モーメントとの間で ハーモニーを形成する必要があると言うことのようだ。
ボールを打つ瞬間を意識して 腕を動かし、手首を利かせようとするショットでは 遠心力を使った(慣性モーメントに逆らわない)クラブのリリースとは異なり、大きな慣性モーメントを要する形で手首をリリースさせようとする訳だから 安定性を欠いたショットにならざるを得ないことが想像できるだろう。打つ瞬間を 点として 意識したスイングではなく、線(クラブヘッドの軌道)の上にボールがあるイメージのスイングが オススメな所以である。